それ的なアレ

沖縄でドラムを叩く人、友人やバンドメンバーからはサイコパスと言われている心優しいゴミが描く壮大なゴミブログ

社会人のマナーってよく考えると独特だなと

 

ビジネスシーンに蔓延する独特のマナー全てに対して「独特レベル」を点数付けした場合に確実に上位に食い込んで来るであろう非常に独特なマナーの一つ。それは、「名刺交換の際に、相手よりも低い位置で自分の名刺を渡す」という例のアレだろう。



名刺を交換する際には、相手の差し出した名刺の高さよりも、低い位置で自分の名刺を差し出さないといけないと言うのだ。新人研修で習った際には、相手よりも低い位置に名刺を差し出すことで、「謙虚さ」を示しているのだと説明を受けた。



最初に断言しておくが、私は何もこういったビジネスマナーを小馬鹿にしたいのではない。「極めて独特である」と言っている。いや、むしろ、「感銘」すら受けている。





第一に、この「相手よりも低い位置で名刺を差し出す」という鉄則は、容易に無限の事態を招き得る。この大原則を、自分と相手が、律儀に守ってしまった場合に何が起こるのか。互いが互いに相手の名刺の下に潜り込もうとして、熾烈な争いが起きる。



先ずは、相手が名刺を差し出してくる。私は差し出してきた名刺の高さよりも、1cmほど低い位置にこちらの名刺を出しいざ交換をしようとするが、相手は「いえいえ」と謙虚な声を出しながら自分の名刺をそこからさらに2cm下げることで私の名刺の下に潜り込んでくる。



私は下に潜り込まれたことで相手の名刺を受け取ることが出来なくなり、「いやいや」と言って苦笑いをしながら自分の名刺の高さを更に2cm下げ、相手の名刺の下に潜り込む。



アホみたいな話に思えるかもしれないが、実際のビジネスシーンで、これはよく起こる現象だ。特に、会社の立場も年齢も同程度な、「どちらが偉いのか本当によく分からない」状況において頻発する。



私の「いやいや」の後はと言うと、相手は「いえいえ」と言ってはにかみながら更に2cm下げ、そして私はすかさず2cmを下げるのだ。そしてついに世界から「いえいえ」も「いやいや」も消え去り、私の素早い2cmを見て相手は迅速に2cmを下げる。



やがて私は相手の動きを完全に見切り、相手が2cmを下げている途中で、既に、次の自分の2cmを開始する。この無限に続く2cmの争いの中で、互いが合意できる瞬間というのは、一体、いつ訪れるだろうか? 決して訪れることはない。

 

 

 

「ふ..」相手はニヤリと笑い、そして突如として高速で下方向に名刺を突進させる。私は負けじと鬼の形相で名刺を下側に突撃させる。やがて会議室の床まで私が先に到達すると、取引先は、「失礼します」と言って会議室を出て行く。



会議室に残された私は、おや? と思う。すると次の瞬間、窓の外から声が聞こえるのだ。身を乗り出して見てみると、なんと、下の階から、先ほど部屋を出て行った取引先がこちらを見上げて名刺を差し出しているではないか。低い。なんて低い名刺の位置なんだ。ビジネスマナーの鬼だ。



私は慌てて会議室を飛び出し、エレベーターに飛び乗る。2階下り、窓から身を乗り出し、1階上の階にいる取引先を見上げて名刺を差し出すと、彼は一目散にその部屋を飛び出してエレベーターに飛び乗る。こうして、ビル内で、壮絶な争いが始まる。下へ。相手よりも、下へ。





さて、ここまでくれば、この戦いが最終的にどのような末路を辿るか、おおよそ想像がつくだろう。相手よりも低い位置に名刺を差し出したい。その熱い思いを胸に、男達は一階まで降り切り、そして、そこから更に地下深く、「マントル」を目指すことになる。



しかし、実際には、マントルというのは「月よりも遠い」と言われているほどに到達困難な場所である。つまり、現実問題として、男達のビジネスマナーの争いはまず、その手前の「地殻」部分にて行われることとなるのだ。



男達は、自前の「大深度用立抗掘削機械」を持ち出し、バリバリと地面を掘り始めるだろう。名刺を片手に、男達は地球の中心に向かって突進する。目標は「上部マントル」。その為には、60km近く地下を掘り進まないといけない。



尚、この地殻部分における掘削争いは、地下岩盤の地質学的特性をどの程度正確に把握しているか、という部分が非常に大切になってくることに留意されたい。つまり、「穴を掘る場所を間違えれば、崩落を招いてしまい一巻の終わりである。」ということだ。



どうも先ほどから、多くの読者を置き去りにしているのではないかという悪い予感がしているが、いずれにしても、掘削に適していない部分を強引に掘り進むことは、「死」を招く可能性がある。名刺を低く渡すというのは、命をかけたビジネスマナーなのである。



必然的に、男達は名刺をより低い位置で渡すため、日本各地の地層を入念に調べあげることになるだろう。どこなら地中深く穴を掘っても安全か。どこに自慢のドリルをブチ込むのが理想的か。



初対面の取引先と会った場合のデキるビジネスマンの基本的な動きは、名刺を床に突進させてからエレベーターで慌てて一階まで降り、日本地図を広げて理想的な掘削地点を特定した後、大深度用立抗掘削機械を持ってそのポイントへ可及的速やかに駆けつける。というものになる。



尚、参考まで、掘削にあたって理想的な場所の具体的な例を示しておくと、日本においては北海道の稚内市などが挙げられるだろう。
※『稚内層珪質泥岩の乾燥による収縮と強度の変化』参照

8-11 岩に含まれる水分で大きく強度が変わる泥岩 | 原子力機構の研究開発成果2015

 

 

 

 



いずれにしても、結論としては、「名刺交換をするなら稚内が望ましい。」ということである。

 

 

 

しかし、こうして改めてこのビジネスマナーの末路を考えると、何か腑に落ちないものがあるのではないだろうか



そもそも、取引先と名刺交換をするたびに稚内に行っていたのでは、コストが合わない。というか、名刺交換の度に人類がマントルを目指してズボズボ地表に穴を空けていたのでは、コスト以前に、地球側がもたないだろう。





ここで改めて冒頭に立ち返り、「名刺を相手よりも低い位置に出すことが謙虚」という理屈をゼロベースで紐解くと、我々が大きな誤解をしていた可能性が浮上する。



これまで我々は、「名刺の存在する高さと、人間としての地位とは、正の相関がある。」と考えてきた。それ故、謙虚さを示すため相手よりもとにかく「低く」名刺を出そうとし、結果的に、人類はマントルを目指してしまったのだ。



しかし、「人間としての地位や偉さ」と相関を持つのが、「名刺の存在する高さ」ではなく、「名刺の保有する力学的エネルギー」であったと考えたらどうだろうか。力学的エネルギーとはつまり、位置エネルギーと運動エネルギーの合計値である。



さあ、記事からいよいよ怪しげな空気が漂ってきているが、続けよう。これは即ち、「名刺の位置が高い方が偉い」と見えていたこれまでの事象は、実際には、お互いの名刺が同じ質量、どちらも静止している前提で、「位置エネルギーの分だけ、場所の高い名刺が、偉かった」ということに過ぎなかった、という仮説だ。



つまり、実のところ、同じ高さにあったとしても、「非常に重い名刺」や、「物凄いスピードで動いている名刺」というのは、力学的エネルギーが大きい分、「偉い」と言えたのではないかということになる。



この新たな力学的エネルギーを用いたビジネスマナーの解釈が、従来の解釈に比べて画期的な点。それは、相手よりも高い位置で名刺を差し出してしまったとしても、相手よりも非常に軽い名刺を使っていれば、全く問題なく「謙虚さ」を示すことが出来る。ということだ。



つまり、「名刺の重さは、渡されるまで分からない」という点がポイントなのだ。「高さ」は視認できるが、「質量」は視認出来ないという人類の特徴。これにより、お互いに差し出した名刺の偉さ関係が、極めて不明瞭な状態となる。よって、名刺交換自体が、成立するのである。





さらに、この解釈の発見により、名刺交換の柔軟性が増す、という点にも充分留意頂きたい。例えば、「高さと偉さに相関がある」とする従来の解釈のまま、3階下の会議室にいる社長、つまり明らかに目上の人と名刺交換をしようと思ったら、どうだろうか。



 

旧来の解釈を用いれば、わざわざあなたがもっと下の階に下がらないといけない。しかし、力学的エネルギーを用いた新たな解釈を適用することでこの問題は容易に解決する。社長が下の階に居たとしても、彼に、鉄製のゴッッツイ名刺を保有して貰うだけでオッケイ。



そして、出来ればその名刺を、思い切りどこかに向かって投げ飛ばして頂こう。初速はv(0)とおいて頂きたい。そうすることで、下の階でありながら、彼の名刺は非常に偉くなる。社長の肩が強ければ強いほど、名刺は、偉くなる。両者は場所を移動することなく名刺交換を完了する。



こうして、高さの問題を解決し、人は極めて柔軟な名刺交換を実現したのだ。いやあ、嬉しい。嬉しいよ。ついに。ついに人類は、稚内マントルを目指すことなく、自由に名刺交換を実現することが出来るんだね!!

 

 

 

乾杯。