それ的なアレ

沖縄でドラムを叩く人、友人やバンドメンバーからはサイコパスと言われている心優しいゴミが描く壮大なゴミブログ

ある面接で学んだこと10選

 

張り詰めた空気、永遠とも感じられる刹那の時間


このうだるような暑さ、この時期になると就職活動もかなり進み、就活フェアなんかも盛んになってくる時期だろう。

こんな時期になるとふとあの面接を思い出す。




あの瞬間が、今でも忘れられない。それは私の脳裏にこびり付き、ことある毎にフラッシュバックする。とある企業の面接を受けた時のことだ。









その面接は学生2人に対して面接官が1人という2:1の形式で、一緒になったもう1人の学生は高身長のイケメン。中高は部活の主将で、大学在学中も部活動に打ち込む傍ら環境問題か何かの何々を解決するためのNPOだか何だかに所属し、あと何かの団体で海外にも行って何かしましたみたいな、言わば就職活動の権化みたいな男。



別に2人を競わせるような意図の面接ではなかっただろうけど、とは言え彼の後に毎回私が話すわけで、気になって仕方がない







その活動内容や実績に加え、雰囲気だとか話し方もどことなく好青年っぽくて嫌味が無く、全くもって隙がない。言ってしまえば、完全究極体・就活人間・無双モード。こらアカンわ、自分の恐るべし糞さが浮き彫りになってまうわと思いながら、ズルズルと面接は進む







中学高校時代の部活動についてお伺いしても宜しいですか? 面接官が質問し、我々は質問に答える







はい、私は…部で、部長をつとめておりまして…そこで培った…から…といったことを学び……





あ、はい、僕は部活、普通に続けてはいましたけど…あ…何て言うかそこまで熱意をこめられなかったっていうか…あ、でも皆とは今でも仲良しです……









志望動機、学生時代に頑張ったこと、長所と短所。話題が進むにつれ彼のスゴさが浮き彫りになっていき、それが私の驚異的にしょうも無い発言と並ぶことで残酷なコントラストをなす





そして面接もラスト、面接官が、では最後の質問ですがと言いながら、我々2人に質問を投げかけた。





「今までの人生で、“赤い糸”を感じたことはありますか? 運命的な何かを感じたことは、ありますか?」













……あ、赤い糸? なんだよ赤い糸って(笑) 





常日頃から斜に構えている精神の捻じ曲がった私は、内心、プッと笑った。なにを言ってるんだろう、このオジさんは。赤い糸? どうした? メルヘンチックか? メルヘンチックなのか?



いや~独特な質問だなぁと思いニヤニヤモゾモゾする私とは裏腹に、隣の無双モードは前のめりな姿勢のまま物凄い勢いで話し始めた。「私、もともと業界内での会社同士の違いって全然無いと思ってたんです。結局、どこも同じなのではないかと思っていたんですね。」





「それが、御社の社員にOB訪問させてもらった際、……というようなことがありまして、…が…で、ああ、これは…だなあと思ったんです。そういう意味で、御社に対しては、何て言うか赤い糸に近い、運命的なものを感じました。他の企業では感じなかった何かを、御社には感じたんです。」









嘘だろ







…うお、やりおったなこいつ… 禁じ手に手を出しおったな… なんちゅう大胆な胡麻スリやねん





オンシャにアカイイト? ……いや、それはさすがにやり過ぎやろオイww わろたww え、気持ち悪!! 気持ち悪いですよねぇえ?  え、気持ち悪いですよねえええ、面接官さあああんn??!





同意を求め面接官に目配せした私の瞳に映ったのは、ゴマスリ大学生の話に陶酔し、首がもげるほどフンフンと頷いているオジさんの姿だった。首をブルンブルンと縦に動かし、食い入るように彼の話に聞き入り、見るからに感動している。笑みがこぼれている







あ、え、ナニ? そういう感じ? え、そういう感じなの? オンシャにアカイイトが刺さったの?マジかよ、そういう感じなのかよ



重度の混乱に陥った私に、しかし無情にもターンが回ってくる



「それでは、千葉さんは?」











パニック







自分の想定していた感じと違う流れになり、何も答えを用意していない事実に向き合って気が動転した



言いようの無い危機意識が、もうここは一発狙いに行くしか無いぞと自分に語りかけた。もう、一撃を狙うしかない。イケ、イクシカナイ…… 「運命的なもの…そうですね。僕は神の導きとしか思えないような運命の赤い糸、みたいなものは一度も感じたことがありません。全くありません。というか、そもそも、そういうワケの分からないものが余り好きではなくて。」





「一方、物体としての赤い糸は見たことがあります。すなわち、赤い色をした、毛糸ですね。かつて、大阪に住む祖母の家の床に落ちていました。拾って、捨てましたがね。」







目が点のオジさんと、ドヤ顔で踏ん反り返る学生









私は、二度と忘れない。その時面接会場に蔓延した、静かで、冷たい空気を









それは張り詰めた空気。永遠とも感じられる刹那の時間









「滑った」とか、その程度の表現で済まされるなら御の字。面接会場は私の一言で宇宙としか思えないほどに息苦しい、限りなく真空に近い状態へと変貌を遂げた









刹那、一か八かの奇策「本音」が大きく裏目に出たことを感じた男性は、パニックに身を任せて、人類史上稀にみる大胆な軌道修正を繰り出した













「ええと、何て言うんですかね、そういうわけで、感じてます。運命。御社に。」

























赤い糸は信じない。





祖母の家に落ちていた、物体としての赤い毛糸は、捨てた。





しかし、感じてます。運命。御社に。



















これが、わたくしのロジックである。















殆ど、「暴力的」と言っても差し支えないほどに強烈な論理















一線を超えているとしか思えない、卓越した思想





















そこからは、ただただ、想像通りの地獄だった





面接官の私を見る目つきは殆ど虫けら、具体的に言うとカマドウマに向けられたそれに変わり、横の無双人間は私と同じ属性の生き物だと思われることを恐れ大胆に距離をとった。面接は無事、大混乱のうちに幕を閉じた。





精神の捻じ曲がった学生が斜に構えながら意味不明な供述を繰り返す姿を見て、どこの人事が採用を検討するだろう。何のサプライズもなく、私はアッサり落とされてしまった。至極当然の結末である。





















“意味不明なことを言うと、面接に、落ちます。”



これこそが、この物語が教えてくれる教訓だ。つまり、何一つ学びは無いと言い換えてもらっても良い。





あれからずいぶんと時が経ったけども、結果的に、私は今でもあの頃と変わらずに捻じ曲がった精神の元で意味不明なことを毎日のように呟いている。極度の緊張の中で生まれた咄嗟の言動、それは自分という人間の変わることのない本質を端的に表していた、そんな気がしてならない





何度思い出したって未来に繋がる教訓が得られることはなく、それでも何故だか記憶の片隅にこびり付いては定期的にフラッシュバックするあの面接に、今では運命に近い何かを感じている。